腎機能障害
腎臓(じんぞう)とは?
人の体の中にある、そら豆のような形をした臓器で、普通は左右1個ずつ(計2個)持っています。正常な大きさは、縦約12cm、横約6cm、厚さ約3cmで、重さは約150gです。
心臓のポンプから、全身に送り出された血液は、大動脈を通って、その一部(約25%)が、大動脈の途中から枝分かれしている左右の腎動脈へ入っていき、腎臓の中へ入っていきます。腎臓の中に入った血液は、腎臓の中の細い血管を流れて、末端にある糸球体(しきゅうたい)という、毛玉のような形をしたところへたどりつきます。ここで、老廃物や余分な水分が濾(こ)しだされ(つまり濾過(ろか)器の役割をしています)、この濾しだされた液体(原尿といいます)が、ボーマン嚢といわれる袋に回収され、尿細管、集合管という管を通っていきます。
しかし、尿細管~集合管を通っている間に、原尿のうち必要な物質や水分は再吸収され、余分な物だけが尿として、腎盂→尿管→膀胱と流れていき、排尿することで尿道を通って体外に排泄されます。
糸球体、ボーマン嚢、尿細管をひとまとめにしてネフロンと呼ばれ、一つの腎臓に100万個あるといわれています。成人において、原尿は1日に約100リットルつくられますが、そのうち99%が尿細管に再吸収されるため、尿として体外に出されるのは約1~1.5リットルとなります。
腎臓はどんな働きをしているの?
主な働きは、上記のように、体の中を流れる血液を濾して、おしっこ(尿)をつくることです。
血液の中の老廃物(毒素)や、体にとって余分な水分を、濾して尿にし、体の外に出すことで、体の中のバランス(恒常性)を保っています。
腎臓のいろいろな働き
1. おしっこをつくる
食事を消化・分解した際にでたカス(老廃物)を、体の外に出す
特にタンパク質が分解されて生じる窒素化合物は、体にとって有害なので、体外に排出しなければいけません。ヒトを含む哺乳類は、肝臓でアミノ酸を尿素に化学変化させて、血流に乗って腎臓へ送られ、尿として体外に排出されます。
体の中の水分量を調節する
体の中の水分が少ない時は、尿を濃く、量を少なくします。体の中の水分が多い時は、尿を薄く、量を多くします。
体の中の電解質を調節する
体の中にはナトリウム・カリウム・カルシウム・リン・マグネシウムなどの電解質が含まれており、生命を維持する上で必要な働きをしています。これらの電解質の濃度をちょうど良い濃度に保たなければなりません。腎臓は尿をつくって、電解質の濃度を調節します。
体の酸塩基平衡(pH:ペーハー)を調節する
ヒトの体液のpHは弱アルカリ性で、酸性に傾くと問題が起こります。
腎臓は体内で生じた酸性物質を中和し、尿の中に排泄し、血液を弱アルカリ性に保つ働きをしています。
2. ホルモンをつくって出す
造血ホルモン(エリスロポエチン)をつくっている
骨髄に働きかけて、赤血球をつくることを促進するエリスロポエチンというホルモンをつくっています。
血圧調整ホルモン(レニン・プロスタグランディン・カリクレイン・キニンなど)をつくっている
血圧が下がって、腎臓へ流れる血液の量が減少すると、レニンというホルモンを分泌して、血圧を上げるように働きます。
3. ビタミンDを活性化する
ビタミンDは食物からとることや、日光の紫外線により皮膚で作られます。これが、腎臓で活性化され、活性型ビタミンDとなります。ビタミンDは活性化されないと働きません。活性型ビタミンDは、カルシウムとリンを腸から吸収することを助けます。
腎機能障害とは?
腎臓が、正常時よりも働かなくなることをいい、特に正常時の50%を下回った状態を腎不全といいます。
腎不全の原因は?
障害を受けた個所によって以下の3つにわけられます。
いずれも、最終的には腎臓がおしっこをつくれなくなってしまうことで腎不全になります。
①腎前性・・・腎臓に行く血流が減ってしまう
【主な原因】 大量出血・脱水・心不全(心臓が血液を送れない)・腎臓の血管が狭かったり収縮する・高血圧や動脈硬化
②腎性・・・腎臓そのものがダメージを受けてしまう
【主な原因】 腎臓自体の病気(糸球体腎炎・ネフローゼ症候群など)・薬や化学物質などの副作用・腎臓以外の病気が原因で腎臓が障害をうける(糖尿病・多発性骨髄腫・痛風など)
③腎後性・・・腎臓よりも先の臓器(腎盂・尿管・膀胱・前立腺・尿道など)に問題
腎臓でできたおしっこが、腎臓より先へ流れていかないため、この状態が続くと最終的に腎臓がおしっこをつくれなくなってしまいます。
【主な原因】 腎盂尿管の病気(腎盂腫瘍・腎尿管結石・尿管狭窄など)・膀胱尿管逆流・膀胱の病気(膀胱腫瘍など)・前立腺の病気(前立腺ガン・前立腺肥大症など)・尿道の病気(尿道狭窄など)・尿管のまわりの臓器が広がって尿管を狭くしてしまう(子宮ガン・大腸ガンなど)
腎不全になるとどうなるの?
上記のような働きが悪くなるため、次のようなことが起こってしまいます。
①おしっこができなくなる
体の中に毒素がたまる
毒素がたまると、疲れやすくなり、気持がわるくなったり、食欲がなくなります。ときに頭痛や注意力が散漫になるなどの脳神経系の症状が現れ、進行するとけいれんや意識障害を起こすことがあります。
体の中に水がたまる
水がたまると、体がむくんだり、肺に水がたまると息が苦しくなってしまいます。また、血 圧も上がっり、体重が増加してしまいます。
体の中の電解質のバランスが崩れる
特にカリウム(K)が、おしっこと一緒に体の外に出せなくなると、血液の中のカリウムの濃度が濃くなり、命にかかわるような不整脈が起きてしまいます。
体の中の酸塩基平衡が崩れる
血液が酸性になってしまい、体がだるくなったり、呼吸などに影響がでることがあります。
②ホルモンがつくられなくなる
赤血球がつくられにくくなるため、貧血になってしまいます。
③ビタミンDが活性化されなくなる
骨がもろくなってしまいます。
ただし、腎不全にともなう症状は、腎臓の機能がかなり悪くならないと現れません。初期~中期は症状がほとんどないため、早めに治療を行わないと、病気はどんどん進行してしまい、透析をせざるを得ない状況になってしまいます。気づいた時にはもう手遅れという状況です。
症状が出ないうちは、健康診断の尿検査や血液検査で発見されることがほとんどですので、きちんと健康診断を受けることが大切です。
腎機能の検査は?
血液検査、尿検査でわかることが多いです。腎臓の働きをしらべる検査はさまざまなものがありますが、ここでは代表的なものをあげてみます。
①血液検査
血清クレアチニン(Cr)値(正常値:0.5~1.0 mg/dL)
腎機能の指標として一般に使われています。クレアチニンは筋肉から血液中に出て腎臓から尿に排泄されます。腎臓の機能が低下すると、クレアチニンを体の外に出せなくなるため、血液中のクレアチニンの濃度が高くなります。ただし、筋肉量が多い人ではもともと濃度が高く、筋肉の少ない人は低くなる傾向があります。
体の中に水がたまる
水がたまると、体がむくんだり、肺に水がたまると息が苦しくなってしまいます。また、血 圧も上がっり、体重が増加してしまいます。
血清尿素窒素(UN)(正常値:5~20 mg/dl)
タンパク質が分解されてできる老廃物です。腎臓で、血液から濾しだされて尿の中に排泄されますが、腎機能が悪くなると体の外に出せなくなるため、血液中の濃度が高くなります。
②尿検査
尿タンパク
タンパク質は腎臓の濾過器の穴をくぐりぬけることができないようになっているため、尿中へタンパク質が漏れることはごくわずかです。このため通常は、尿中のタンパクは微量ですが、腎臓の機能が悪くなると、濾過器(糸球体)にも支障が生じ、漏れないはずのタンパクが尿の中へ漏れてしまいます。
おしっこを試験紙にひたして、色の変化で尿の中にタンパク質が出ているかチェックします 。
血尿
赤血球も、タンパク同様、濾過器(糸球体)の穴を通ることはわずかでしかありませんが、糸球体が障害されると、赤血球が尿の中に漏れ出てしまいます。漏れる赤血球が多ければ、尿の色は赤くなりますが、少量の場合見た目は赤くならず、一見正常のようにも見えることもよくあります。
健康診断などでは尿を試験紙に浸して、色の変化をみたり、尿の沈殿物を顕微鏡で観察して赤血球の有無を調べます。 また、腎・尿管・膀胱などに、結石や腫瘍がある場合も、血尿が出ることがあります。
③クレアチニンクリアランス(正常値70~120 mL/min)
糸球体の濾過能力をみるのに良い指標となります。血液中のクレアチニンと尿中のクレアチニンの濃度を測り、腎臓がクレアチニンを含む血液を1分間にどれくらい糸球体で濾過できるかを計算します。一定時間内に排出した尿をすべてためて(蓄尿)検査するため、原則入院が必要となります。
腎不全の治療は?
腎不全は、発症するまでの期間で、急性腎不全と慢性腎不全に分けられます。
急性腎不全
その名の通り、それまで正常であった腎臓の機能が急激に悪化するもので、血清クレアチニン値が1日0.5mg/dL、血清尿素窒素が1日10mg/dL 以上上昇することが目安となります。腎臓の機能が元にもどり、治療が必要ではなくなることもよくあります。
血清尿素窒素(UN)(正常値:5~20 mg/dl)
タンパク質が分解されてできる老廃物です。腎臓で、血液から濾しだされて尿の中に排泄されますが、腎機能が悪くなると体の外に出せなくなるため、血液中の濃度が高くなります。
慢性腎不全
数ヶ月から数年の長い経過で腎機能の障害が徐々に進行するものです。病期(病気の進行具合)は、第1期~第4期に分けられています。
第1期(腎予備能減少期)
腎臓の機能が、正常~50%まで減少した時期。この段階では、まだ体のバランスはほぼ正常に保たれており、症状もほとんどありません。
第2期(代償性腎不全期)
腎臓の機能が、50~30%に低下した段階。尿を濃縮することができなくなってきます。そのため、軽度の貧血を認めるようになります。
第3期(腎不全期、非代償期)
腎臓の機能が30~5%に低下し、老廃物がたまりやすくなり、電解質やpHのバランスが崩れてきます。
第4期(尿毒症期、末期腎不全)
腎臓の機能が5%以下となり、尿がほとんど作られなくなるため、いろいろな症状が出現し、放置すれば死に至ります(尿毒症といいます)。
慢性腎不全は急性のものと違って、腎臓の機能が元に戻ることは期待できないため、できるだけ進行しないように老廃物の原因となる食事の内容に気をつけなければなりません。
第4期になってしまった場合、透析・腎移植などの治療を行わないと命にかかわる状態となってしまいます。
では、具体的に腎不全に対してどのような治療があるのか以下に挙げてみます。
①食事療法
慢性腎不全の場合、残念ながら腎臓の機能はもとには戻らないため、腎臓の機能障害が進行していくと、最終的には腎臓が全く働かなくなり、透析などの治療が必要になります。腎不全の進行をできるだけ抑えて、透析などの治療を受けずにすむように、あるいは透析開始をできるだけ遅らせるようにすることが、まず始めに重要です。
そのために有効なのが食事療法です。
タンパク質をとりすぎない
タンパクは老廃物(毒素)のおおもとであるため制限しなければなりません。
カロリーを高めにする
タンパク質を制限した食事をすると、エネルギーが不足して、体をつくっているタンパクがエネルギーのもととして使われてしまいます。このことで、老廃物が増えてしますため、エネルギーが不足しないよう若干カロリーの高い食事をとる必要があります。
塩分を控える
腎不全になると、体に水分がたまり血圧が高くなります。血圧が高くなると、腎臓の血管が動脈硬化に陥り、腎機能の悪化に拍車をかけてしまいます。このため、塩分を控えめにし(1日7g以下)、高血圧を予防する必要があります。
②水分摂取量の調節
腎臓の機能が悪化すると、尿が出なくなり、水が体じゅうに溜まってしまうため、水分を制限する必要があります。
ただし、腎不全の原因が脱水(腎前性の原因の一つ)の場合は、逆に水分を補給しなければなりません。
③薬剤
血圧を下げる薬や、おしっこを出しやすくする薬(利尿剤)などを使います。
④透析療法
腎臓の働きを、腎臓に代わって人工的に行う方法です。透析によって生命を維持することができ、通常に近い生活を営むことが可能になります。透析の方法は大きく、血液透析と腹膜透析に分けられます。
【血液透析】
体の血管に針を刺して、そこから血液を、ポンプを用いて体の外に引き出し、この血液を、ダイアライザーという濾過器に流して、ここで、老廃物および余分な水分を取り除き、残ったきれいな血液を、再び体に戻す操作を数時間(3~5時間)継続して行います。
これを、1週間に2~3回、病院に通って行います。
通常のヒトの体の中の腎臓が2日間かけて行う仕事を、血液透析ではたった4時間で行わなけばなりません。
そのため、効率よく血液透析を行い、老廃物や水分を取り除くには、1分間に約200ミリットルというたくさんの血液をダイアライザーに流す必要があります。
これだけ多くの血液量を確保するためには、動脈と静脈を手術でつなぎ合わせることによって、静脈の血管に血液がたくさん流れるようにします(腕の血管をつなぎ合わせることが多いです)。
こうすることで静脈がどんどん太くなっていき、多くの血液を体の外に引き出すことができ、なおかつ針も刺しやすくなります。
これを内シャントといい、血液の取り出し口をブラッドアクセスといいます。
内シャントは手術後2週間ぐらいたたないと、太くならないため、透析をしなければならない頃を見計らって、計画的に手術を行うことが望ましいといえます。
内シャントを使用中に、血管がつまったり細くなって使えなくなることがあります(シャントトラブル)ので、日常、内シャントを抑えつけたりしないように注意する必要があります。
急に透析をしなければならない状況や、内シャントがつまった人には応急的に動脈を直接針で刺したり、足の付け根や首などの太い静脈に人工物の管(カテーテル)を挿入することもあります。
血液透析は、ヒトの腎臓の機能を完全に補うことはできず、さまざまな合併症が起こります。
- 動脈硬化が進行する
- アミロイドが体の組織に沈着してしまう
- 骨がもろくなったり、体の組織が石灰化する
- 血圧の変動が大きくなったり、心臓に負担がかかり心不全になってしまう
- 脳出血をおこしやすい
- 体の抵抗力(免疫力)が落ちるため、感染症や悪性腫瘍(ガン)にかかりやすくなる
などです。
ちなみに日本の血液透析医療は世界一と言われています。
透析を始めなければならなくなる(透析導入)原因の疾患の第1位は、糖尿病性腎症で40%を越えています。第2位が慢性糸球体腎炎で20%強の割合です。3位は腎硬化症(高血圧)で約10%です。
糖尿病性腎症と腎硬化症の割合が年々増加する傾向が続いており、慢性糸球体腎炎の割合は減少しています。
糖尿病性腎症による末期腎不全は、1998年に慢性糸球体腎炎と入れ替わって透析導入の原疾患の第1位になり、更には増え続け、現在約半数近くを占めるようになりました。
糖尿病性腎症の場合、腎機能障害の進行が他より早く、心不全症状も出やすいため、他の病気よりも早く透析を導入しなければなりません。
【腹膜透析】
お腹の中に透析液を入れて、腹膜という胃腸などを覆っている膜によって水や老廃物を濾し、再び透析液を体外に出す方法です。
おなかのなかに人工の管(カテーテル)を入れる必要があります。
腹膜は次第に濾過する機能が落ちるため、数年でつかえなくなってしまいます。
また、腹膜にバイ菌が入って腹膜炎をおこしたり、まれに腹膜がかたくなって被嚢性腹膜硬化症という重い合併症を起こすことがあります。
⑤腎移植
他人の腎臓を自分の体の中に植え込む手術を行います。植え込んだ腎臓が体に合えば(生着)、自分の腎臓同然となり、透析を行う必要がなくなります。
このような点で、移植は慢性腎不全の治療法のなかで唯一根治する可能性のある治療ですが、血縁者を中心に、腎臓を提供(臓器提供)する人がいなければ、行えない治療です。また、腎臓が生着するために免疫抑制剤という薬を飲まなければなりません。